私はWebサイトの多言語化をした経験があります。そのときに感じたことは、サイトの多言語化は簡単ではないということです。この記事では、サイトを多言語化する際に失敗しやすいポイントを説明しています。
安易に多言語化に手を出す
外国人がメインターゲットのサイトの場合、例えば格安ゲストハウスや外国人向けのイベントなどは、多言語でサイトを作るのは問題ありません。そうではなくて、日本人がメインターゲットで、しかも予算が潤沢にあるわけではないのに、安易に多言語化に手を出すのは止めた方が良いです。
私が長くWebのアドバイスをしている会社では、日本語のホームページを開設したばかりでまだアクセス数がほとんどない状態で、多言語化をしようと検討していました。その会社で想定している顧客は外国人も含みますが、メインは日本人です。
ブログを運営した経験がある人は分かると思いますが、サイトを開設しただけではアクセス数はほとんどなく、それ自体にあまり意味はありません。そこから有益な記事を増やしていくことで徐々にアクセス数が増加し、最終的にコンバージョン(成果)に至ります。
その会社はできたばかりで利益が少なかったので、まずは日本人からのアクセス数が増えるように、コンテンツの充実やSEO対策、SNSでの拡散などを行い、アクセス数がある程度増えて軌道に乗ったら、多言語化に投資するのが良いと思っていました。
Webに疎い小さな会社では、ホームページを作ることが目的になってしまい、肝心のアクセス数については気にしないことがあります。今回の会社の例では、日本語と英語のサイトをお金をかけて制作しただけで、結局は日本人からも外国人からもアクセス数が増えず、サーバー代やドメイン代などのランニングコストだけが発生し続けるところでした。
Webサイトを制作する会社の担当者は、サイトを作って引き渡すところで終わりです。その後のアクセスアップのアドバイスはしてくれませんでした。多言語化をしたいと言えば、喜んで引き受けるでしょう。多言語化が本当に必要か、今すぐにお金をかけてやるべきことなのか、自分たちで考えることが大切です。
語学力が足りない
日本人が日本語で文章を書く場合でも、漢字を間違えたり、言葉の使い方がおかしかったりと、不適切な文章になることはあります。日本語以外で文章を書けば、なおさら不適切な文章になる可能性が高いです。
単純に外国語の単語を知っていれば良いわけではありません。例えば、日付のフォーマット(mm/dd/yyyyやyyyy/mm/dd)が国によって異なるように、慣行や文化まで意識しなければいけません。学校で習う英語ならまだしも、中国語などで多言語化する場合には、語学力のハードルは高いと思います。
もちろん、お金を払えばクラウドソーシングなどを利用してプロに翻訳を依頼することはできます。ただし、翻訳の価格は一般的に高いため、ページ数が多い場合には多言語化の費用が高額になる可能性があります。場合によっては、知り合いの外国人に翻訳を安くお願いしたりといった工夫が必要になるでしょう。
Webサイト制作のスキルが足りない
サイトを多言語化した経験がある人は、そこまで多くはないと思います。私の昔の話では、Webサイト制作のコンサルをしている専門家に多言語化について相談したら、全くやり方を知らないようでした。
多⾔語対応したサイトを制作する場合、ドメインにも注意が必要です。例えば、⽇本語と英語のように複数の⾔語で情報を発信するサイトの場合、ドメインを分けるなら「.jp」などの国別コードトップレベルドメインでも良いですが、サブドメインやサブディレクトリ⽅式を採用する場合は「.com」などのジェネリックトップレベルドメインの方が分かりやすい可能性があります。
記事を英語に翻訳しただけでは不十分で、headタグやGoogle Search Consoleの設定が必要です。例えば、hreflang属性の設定、⾔語切り替えスイッチの設置、国別コードトップレベルドメインを使用せずに特定の国にターゲットを絞る場合はインターナショナルターゲティングの設定が必要なケースもあるでしょう(インターナショナルターゲティングは以前のツールのため廃止される可能性があります)。
Googleは様々な情報を参考にページの言語を検出します。そのうちの一つがサーバーの場所(サーバーのIPアドレス)です。そのため、本格的に多言語化をするならサーバーの場所もどうするか考える必要があるでしょう。中国をターゲットにする場合には、グレートファイアウォールの問題もあります。
検索結果は検索ユーザーの所属する国や地域によって変わり、それに適した情報が優先されやすいです。例えば、⽇本⼈が検索するときには、英語で書かれた海外のサイトよりも、⽇本語のサイトを優先的に表⽰してほしいはずです。
そのため、ここで紹介したような設定が不十分で、英語で書いた記事が英語のコンテンツと検索エンジンに認識されない場合、英語圏の検索結果では多少なりとも順位を下げられる可能性があります。
このように、サイトの多言語化には国内向けのサイトとは違って様々な知識が必要になるため、自分で多言語化をする場合には事前にしっかりと勉強をしましょう。
SEO対策の失敗
サイトのアクセス数を増やす方法の一つにSEO対策があります。SEOは日本語にすると「検索エンジンの最適化」になり、検索エンジンに正しく評価してもらうための対策を意味しています。
SEO対策の一つにキーワードの選定があります。どのような検索キーワードで検索結果の上位を狙いたいか考え、集客を行います。多くの人に検索されている検索キーワードで上位表示されればアクセス数は増えますし、その逆で全く検索されていない検索キーワードを間違えて狙った場合にはアクセス数は増えません。
キーワードを選定するときは、よく検索されるキーワードや、コンバージョンしやすい(購入までのハードルが低い)キーワードを狙ったりします。日本語なら検索されやすいキーワードを何となく推測できますが、日常的に慣れ親しんでいない外国の言葉では、どの単語が検索されやすいか判断が難しいです。
例えば、英語で「旅⾏」という意味の⾔葉には「trip」「travel」「journey」などがあり、海外の⼈はどの単語を使って頻繁に検索するのか分かりません。
検索エンジンに人工知能が使われるようになり、検索キーワードと完全に一致する単語が記事の中になくても、記事の内容が検索キーワードと関連していれば検索結果に表示されるようになりました。しかし、現地の⼈が全く使わない単語ばかりが記事の中にあるのはサイトの訪問者にとって分かりにく、SEO的にもマイナスになる可能性があります。
Webサイト以外が多言語化されていない
サイト上の多言語化が完了すれば、それで終わりではありません。例えば、サイトの問い合わせフォームから英語で質問が来たときに、それに対して英語で返信できなければ悪い印象を与えてしまいます。
インターネットで完結しないリアルビジネスの場合、現場の多言語化も必要です。例えば、インバウンドの対応としてサイトを多言語化した場合、駅や観光地、宿泊先などの看板も多言語化した方が良いです。英語のパンフレットを用意したり、観光案内所に外国語を話せるスタッフを雇ったりと、やることはたくさんあります。
せっかくサイトを多言語化して外国のお客様を集めたのに、現場の多言語化が不十分だと不満に感じてリピートしてもらえないかもしれません。
サイトの多言語化で満足するのではなく、それ以外にもやった方が良いことはないか考え、総合的に多言語化をすることが大切です。
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